先日撮りためた横須賀大会の動画、決勝トーナメントに加えて一般の部・予選の動画と、大会前日の試走を収めた動画の編集と t-suzukiさん提供スペースへのアップロードが終わった。残すは車庫入れ競技のみ。
編集の過程で各参加者のマイコンカーロボットの走りをじっくり見ているが、改めてこの競技のレベルが上がっているなと感じさせられる。自分の場合、ハードウェアの欠陥、不具合、設計ミス、精度不足、剛性不足・・・で高速走行云々以前のレベルに留まっているが、競技の経験を重ねて競技用として優れたハードウェアの製作に成功している上位レベルの競技者ほど、力を入れる対象が制御領域に移っている。この領域に入ると、走行ログの記録と分析の意味も高まるし、今や誰もがそれを活用してハードウェアの限界により近い制御ができるように努力している状況が伺える。
これが全国大会への出場権を掴むトップレベルの競技者となると、「他の参加者から一歩抜け出る」ための強力な”武器”を手にしていることが多いのではないだろうか。今回の大会でいえば、とくながさんが”π型センサ”(勝手に命名)、junさんが"ジャイロセンサ"である。二方とも、ベスト4進出のインタビューの際にこの"武器"について触れ、自身のロボットをアピールしていた。
マイコンカー競技の制御関連デバイスの場合、”頭脳”の強化、つまりマイコンの処理能力アップ云々、それによる制御周期の短縮云々という話はメインとならず、指定マイコンボードをメインに使うというのが”正道”だと思う。故に、自ずと”入力”と”出力”に目が向く。マイコンカー競技の過去を振り返れば”出力”の方が展開が早く、マクソンモータのような高性能モータがロボットに導入するケースが拡大し、多くのロボットの性能限界を引き上げることに貢献している。”入力”の方はどうだろうか。「エンコーダが広まった」「まだまだディジタルセンサが多い」「滝田先生の論文に端を発するアナログセンサが徐々に勢力を拡大」という大きな動きがあり、最近では”カーブ検出センサ” ”坂道センサ”も広がりを見せている。大会を通じて”入力”の候補として次に何があるか?と探している人と、現状維持に走る人のどちらも居ると感じたが、現状維持では埋没してしまいかねないほど、マイコンカーの競技レベル進化は早い。トップレベルを目指すなら、トップレベルの競技者が採用している”入力”は確認し、本質を見極めなければならないだろう。
先ずはとくながさんの”π型センサ”(勝ry)、役割はJMCRサイトの参加者レポートに載っている通り US/OSの判別とその程度の把握。これをうまく使えば後輪駆動ロボットでもマイコンカーの姿勢と走行ラインの安定化を図れることが今大会でも実証されている。このレポート内容を机上計算で確認することから出発。
Excel で基本計算から実施、左の画像のような定常円を想定したシートを作成した。今回の確認には関係ないパラメータも多いので、関連パラメータのみ説明。
Curve_R: センターライン基準の半径[m]
Wheelbase: ホイールベース[m]
ArmLength: センサアーム長[m]
SlipFront: 前輪側すべり角係数
SlipRear: 後輪側すべり角係数
δStatic: 指定条件において静的に円を回る舵角[°]
PsensOfs: "位置センサ"のラインセンサに対する前後オフセット[m]
Offset_H: センターライン中央に対する、位置センサのズレ量[mm]
図はR450コースの定常円、ホイールベース 180mm、アーム長 245mm、すべりゼロの想定。すべりゼロということで、極低速で定常円を回る状況に相当する。後輪内側が最も内側を回り、スタンダードなマイコンカーなら後輪内側がコース内部にはみ出して走るような状態。これで位置センサのズレ量は 6.4mm、定常舵角は 19.18°。
ここで前輪側のすべりだけを増し、アンダーステア状態に設定。とくながさんのレポートどおり、位置センサのズレ量が減少し、4.651mmに。アンダーステアでも定常円を回るために、自ずと舵角が増え、24.722°になっている。
今度は後輪側のすべりだけを増し、オーバーステア状態に設定。レポートの内容どおり、オーバーステアは舵角の減少という形で確認できる。
現実の走行では、前後のどちらもすべりゼロにはならない。速く走るほど、カーブがきついほどすべり角は増す。計算上では、ほぼニュートラルステアに近い(=前後のすべり角が等しい)特性のロボットを作ると、左図のようにR450でもR600でもラインセンサ、ピボット中点、後ろ車軸中点がセンターライン上に乗る(高速走行ゆえに大きなすべりがあっても旋回を継続できる)。最近ブームになっているホイールベースの1.5倍近い長さのセンサアームを持つ変化版SSM、有効に機能する理屈がここにあると分かる。
位置センサと舵角と車速の関係を利用して、どのような状況でもオーバーステア、アンダーステアに陥らずに安定した走行軌道を描くことができれば、速く安定する・・・とくながさんロボットは本番で一度もコースアウトしていない。”π型センサ”も含めたセンシング量とモータ制御がうまく結び付いている証拠、素晴らしいの一言。”π型センサ”は”ライントレース競技”という競技の基本前提をうまく利用し、かつ適切な効果も出せるとても良いアイデアだと思う。「本当に知りたい情報は何か?」と「どうやってそれを簡易確実に手に入れるか?」がうまく結び付いている。個人的には更に踏み込んで解析したい。
次に junさんの”ジャイロセンサ”、こちらは実際の自動車にも使われているデバイスであり、junさんはベスト4インタビューの場でもその基本的な利用方法を解説されていた。これも録画していたつもりだったが、録画ボタンを”ダブルクリック”して止まったままカメラを向けていたことに気付いたのは帰宅後・・・。同様の解説を行ってみる。
上と同様、R450の定常円旋回を想定してほしい。クルマが円を旋回するとき、クルマは円の中点を”公転”しているだけではなく、向きを徐々に変えることで”自転”もしていて、1周すれば1回の”自転”。この”自転”の速度を測るのがヨー軸角速度センサ(ジャイロセンサ)と呼ばれるデバイスである。
R450の定常円を回るとき、中央ラインに乗って走ると想定すれば 1周の長さは 2*π*0.6[m] ≒ 3.77[m] になる。このラインを 3.5[m/s] のスピードで走れば、約1.077[s] で1周できる。ここで”自転”は1周で1回、つまり360度だから、1秒あたりの回転速度は約 334.23 度になる。この秒あたりの自転速度がヨー軸の角速度であり、ジャイロを使って得られる物理量。
このセンサをどう使うかも、”自転”に関連している。アンダーステアとは”自転”が必要より遅い状態、オーバーステアとは”自転”が必要より速い状態。必要な”自転”の速さは、舵角と走行スピードから求められる。junさんの説明は「舵角から幾何学的な走行カーブの半径を求め、それを走行スピードと共に(上のような計算で)角速度に変換し、ジャイロの出力と比較すれば、アンダーステアかオーバーステアかが分かる」というもの。さらに「アンダーステアならば後内輪にブレーキ、オーバーステアなら前外輪にブレーキ(junさんロボットはカウンターステアも可能) という対応を取ることで、アンダーステアやオーバーステアによる”自転”の乱れを抑える、つまり安定したカーブ走行軌跡を維持することができる。」というような説明も付く。基本的な理屈は難しくないのだが、ライントレース競技という前提に頼らずに角速度センサというデバイスに依存するという本質があり、かつ、このセンサの出力特性を理解して使いこなすだけの知識とノウハウが必要とあって一筋縄ではいかない。junさんの使っているセンサはかなり使うのが難しい製品のはずだが、カーブ走行は動画を見ても一番速いレベル、流石です。
どちらのセンサも上位視点でみれば”走行軌跡の安定化”であり、マイコンカー競技者として「これだ!」という走行ライン、走行挙動を如何にして安定に実現するかの手段として使っていることが分かる。すぐに追随するという手もあるが、”抽象思考”を大切にし、「本質は○○だ」「何かもっとうまい手は無いか?」と考えることも、他の競技者から一歩抜け出るためには大事かもしれない。
・・・自分は先ず、基本ハードウェアの確立。出来の悪いハードウェアでは、高度な制御は有効に機能しない。高度な制御を実現できなければ、高価な”制御用モータ”もただの高出力モータ。早く制御領域に集中できるようになりたい。
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